神経症的いるかの話
 神経症的いるかの話は今朝の新聞に載っていた。

 神経症のいるか、神経症的いるか。うん、なかなか悪くない。
 神経症的な時計があれば神経症的な夏の湖もある。神経症的ないるかがいたって僕はちっとも困らない。

 そんな風にして参議院選がえらくにぎやかだった2007年の夏、僕は神経症的いるかに出会った。

*******

 いや、神経症のいるかの記事は本当。あとは村上春樹っぽい文章に挑戦してみたかっただけなのですすいません( -_-)
誰が彼女を一番多弁にできるだろう。
母親だろうか。
親友だろうか。
或いは医者だろうか。
案外たまたま隣に座った僕みたいな奴かもしれない。

まあ、とにかくそんな少女がいた。

「あかん」
と彼女は大きく呟いた。
セーラー服を来て、少し青白い顔をした神経質そうな少女である。
頬にかかった一筋の髪が、鼻から口に微妙な陰影をつけている。
一応周りを見渡して、このバスには僕と彼女の2人だけしか乗っていないことを確認して、彼女の方をちらりと見、また足下のホコリに目を戻した。
このバス、やけにホコリが多い。

「あかんおかしいわ」
おかしいのはお前の声の大きさだよと思いながら、ホコリを足で確かめるようにもてあそぶ。
指先を動かしながら眉根を寄せている彼女はちらっとこっちを見たかと思うと、いきなり僕の背中を叩いてきた。
「赤は分かる。でも青と黄色ってなんなん?」
そんなの知るかよと思いながら身をよじってその手から逃げる。じたばた。
「赤白黒の衣装なら分かるよ。うん。見たまんまやし」
それじゃあ結婚式っぽくないだろと思いながら、このままここにいたら酷い目に遭うと感じて僕は逃げることにした。

「黄色ってまさかあの汁のこ…あ……飛んでっちゃった。今年入って初めて見たわ。もう春やもんね」

*******

はい、ハーフノンフィクションです。Ladybirdのこと。

小説『七夕』

2006年7月7日 小説
 七夕の笹かざりを作りながら、父さんが言った。                                           
「星太、七夕ってどうして『七夕』って書くか知ってるか?」
 僕は、また父さんの面白い話が聞けると思い、目を輝かせながら首を横に振った。
「七夕は『七つの夕べ』って書くだろう?でも本当は『七つの月』から線を一本消したってのが正しいんだよ。」                                     
「どうして?どうして線を消す必要があったのさ?」                                          
「それは………」
                                             
 それは驚くべき話だった。とてもとても驚いてしまって、誰にも言っちゃいけないという父さんとの約束を忘れてしまい、友達の香織ちゃんにだけはしゃべってしまった。
「そんな事が本当に?ありえないわバカらしい」
                                             
 そして七月八日の朝。
 香織ちゃんは教室に入ってきた僕をつかまえて、眠そうな目をこすりながらもはっきりした口調でこう言った。
「うそつき!七夕の夜に秘密の七つの月が出るなんてまったくのでたらめだったじゃない!」
 僕は、同じく眠たく重いまぶたを香織ちゃんの方に向ける事ができなかった。
 家に帰って父さんに、泣きながら香織ちゃんとの事を話すと、父さんは真剣な、それでいて少し悲しげな目で僕を見て、一つの短冊を書いてくれた。

『星太がカオリちゃんと夢見る子ども心を失いませんように』

*******

 家庭教師の教材用に作った文章です(笑)「夢見る子ども心」とは何だと思いますか?とか。
 夢見る子ども心…それは!いつまでもアホな事に目を輝かせる事ができる心やと私は思います。さぁ生徒の子がなんて書くか楽しみやわ☆
 蛍を見た。
 花火をやるからいつもの川に来いって向井が言ったから
 行って待ってたけど一向に来なくて
 おいおいどうなってるんだよあいつ、
 わざわざ偶数になるように花火買ってきた
 あたしの立場はどうなるんだよ
 とか思いながらライターで遊んでたら

 ふわ〜っ

 て青紫の光が1つ飛んでいた。
 いや、あれは浮かんでいた。
 灯っては消えて、見失って、また灯ったのを見つけて。
 どうして灯き消しと飛行ということを
 こうも器用に同時にこなせるんだろうと思いながら
 ふらふらとあとを付いて行ってみた。
 頼りなく優しく美しい光。
 捉まえようと手を伸ばすとすいっと行ってしまった。
 私は、そんな光が自分に捉まらなくて良かったと思った。
『白黒サッカー』

 今、時代は20××年、世界中が、2つの小さな島国に注目していた。いや、島国での勝負の行方に、注目していた。直径40cmそこそこの球に人生を賭ける男たち。白い枠に夢を託す子供たち。選手の神業に酔いしれる女たち。凄まじいパワーに圧倒される老人たち。今、それらの島国では、サッカーのワールドカップが行われていた。
 しかし、試合の、とてつもなく大きな流れとはまた違った所で、あるエピソードがあった。ある国のサッカーチームの話だ。

 そのチームには、控えも含めて24人の選手が在籍している。しかし、ベンチの、監督の隣にはもう1人、いつもサングラスをかけている男がいる。ユニホームを着ているのに試合に出る訳でもなく、じっと座って、他の選手の様子を見ている。試合数を重ねるにつれて、だんだんと相手チームからも注目され出した。「あいつは一体なんなんだ??」と。
 そもそも、その国内でサッカーはそれほど盛んではなく、各々のチームもリーグ戦もなかった。だから出場が決まった(国王が国の宣伝をしたかったという噂がある)時、監督はまず、選手探しから始めなければならなかった。そこで監督は、新聞や掲示板で一般公募をした。皆、国のお金で海外へ行けるとあって、こぞって名乗り出た。しかし、余りにも希望者が多いので、審査をすることになった。その中に彼はいたのだ。
「サッカー経験はありますか?」
「はい。高校の頃は、フランスへ留学したこともあります。」
「じゃあ、ぜひお願いするよ!!!君ならすぐにキャプテンになれるよ!!!」
 翌日、選ばれたメンバーで早速練習することになった。しかし、彼の様子はどうもおかしかった。ボールをよく見逃すのだ。練習後、監督は彼を呼び出した。
「どうかしたかね?調子でも悪いのか?」
彼は黙っていたが、やがて諦めたようにぽつりぽつりと話し始めた。
「僕は……色盲なんです。赤と緑と黒の区別が……あまりつかないんです。赤と緑が…黒に見えるんです。」
「どうしてそんな大事なことを黙っていた!?黙っていてもバレないと思ったのか?フランス留学のことも嘘なのか?」
「いえ、病気は1年前からです!フランスには本当に行きました……。でも僕は、ただどうしても試合に出たくて……」
「馬鹿野郎!!クビだ!とっととコートから出ていけ!!!」
期待が大きかった反動か、監督は彼を怒鳴り付けて追い返してしまった。

 数日後、彼の家に電話がかかってきた。数日前に彼を怒鳴り付けた監督からだった。監督は丁寧な口調でこう言った。
「この間は怒りにまかせて怒鳴ってしまってすまなかった。実は、君に頼みたいことがあるんだ。」
彼は暗く落ち込んでいて、監督への恨み言もあったが、サッカーへの情熱と好奇心が勝った。
「一体なんなんですか?」
「実は、チームの選手のほとんどがルールってもんを知らんのだよ。どんなに技術があってもこのままでは勝てない。どうかチームのルールブックになってくれんかね?」
「……わかりました。条件付きでお引き受けします。僕を…選手の一員にして下さい。試合には出れなくてもいいです。それだけでいいんです!」
勢いに押され、監督はOKした。

 こういう訳で、ボールの見えない代表選手が誕生した。彼は自分の仕事をわきまえ、サッカーのルールだけでなく、高潔な選手の在り方を選手に教えた。そしてそのチームは、世界一のフェアプレイをすると評判になった。

 そのチームは、とうとうこれでトーナメント進出が決まる、という試合まで、なんとか勝ち残ってきた。12月24日、午後8時に試合は開始された。相手チームのユニフォームは赤、自国チームのユニフォームは緑。イエス・キリストが準備していたとしか言いようがない様子だった。観客は応援歌の合間にクリスマス・ソングを歌い、ハーフタイムにはブッシュ・ド・ノエルが飛ぶように売れた。
 しかし、彼にとっては、世界は闇だった。それぞれの色をまとう観客は全て黒色に見え、自国も相手国も同じような黒服を着、黒い空の下、黒の地面の上で球を蹴り合っていた。闇の世界で、球の白い部分だけが光だった。彼はふと、今同じ黒服を着て戦っている人たちは、永い間国同士で争ってきた国の人々だということを思い出した。彼はサングラスを取り、1人でくくくと笑い出した。思いきり空を見上げてわはははと笑った。観客の声が大きかったので、誰も咎めるものはいなかった。
 すると、空に向かってぽかりと開けた彼の口へ、何か冷たいものが落ちてきた。空から、小さなサッカーボールのような雪が降ってきたのだ。彼は、隣の監督にこう言った。
「監督、僕はこんなに楽しくてキラキラ見える試合は初めてだよ。」